緑の悪霊 第6話 |
もう、逃げ道はない。 目の前には自室の扉。 ルルーシュは背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。 階下での会話とはいえ、あの部屋の扉が開けば、ここにいても気づく。 今まで扉が開かなかったと言う事は、C.C.はまだ部屋にいるということ。 上手く隠れたとしても、最初から部屋を調べる事を目的にしている以上、人一人が隠れているのをスザクが見のがすはずがない。 こうなってしまった以上、見つかることは諦めるしか無い。となれば、堂々とソファに座ってるならいいが、下手に隠れてしまうと怪しいなんてものでは済まなくなるだろう。 その時はどう対応すべきか。 思いつく解決方法はのはたった12通り。 チッ、少ない。少なすぎる。 一番最善手は、その後彼女と再会し、軍に追われているというから一時匿っている、と言うものだろうか。 だから人が来たら隠れるよう言っていたと・・・。 「ルルーシュ?」 いつまでたっても開けようとしない俺に、スザクは声をかけてきた。 くっ、いいさ、開けてやる!開けてやるとも!! 覚悟を決めて俺は部屋のロックを解除すると、扉を開いた。 シュンと音を立て開いた光景に、俺は思わず息をのむ。 「おじゃましまーす・・・あれ?」 また閉められてはたまらないと、ルルーシュの背を押しながら室内に入ったスザクは中の様子に目を瞬かせた。 背中を押されたことで、動揺していたルルーシュは思わずたたらを踏んだが、スザクがすかさずその腰に手をまわして抱きとめたので、無様に転ぶ事は阻止できた。 「・・・ねえルルーシュ。君の汚いは、僕には解らないレベルだよ?」 「・・・そ、そうか」 スザクが呆れたように吐いた息を耳元で感じながら、ルルーシュは状況の把握に努めていた。 想定外の光景に、頭が混乱してしまう。 ・・・部屋が、綺麗なのだ。 散乱していた雑誌類は紙袋の中にまとめられ、食べカスだらけのテーブルと床もきっちり掃除されている。 ベッドもぴっしりとメイキング済みで、なによりピザの匂いが一切しなかった。 閉まっていたはずのカーテンは全て開けられ、窓が開いている事から、換気をした事で匂いが消えたのかとも思ったが、見覚えのない消臭剤が机の上に置かれており、辺りには仄かに甘いストロベリーの香りが漂っていた。 そしてその横には無香料の消臭スプレー(室内用)も置かれている。 スザクがきょろきょろと部屋を見回し、何かを探している姿を横目にスプレーを持つと、思ったより軽く、中はほぼ空だと判った。 なるほど、このスプレーをこれだけ軽くする量を部屋の中に撒き、消臭剤で誤魔化し・・・って誰がだ!? あのピザ女にこんな芸当は出来ないぞ!? そもそもこんなものこの部屋にはなかった! 再び混乱のため硬直したルルーシュは気づいていなかったが、スザクは着実に部屋の中を調べ回っていた。 特にベッド回りとクローゼットは念入りに調べ上げている。 そして、眉根を寄せていた。 ない。 ・・・何処にも無い。 思春期を迎えた青少年ならば、必ず1冊は常備しているだろうものが無い。 ルルーシュ、流石にこの年でエロ本が1冊もないってどういう事だよ。 それとも、俺程度じゃ見つけられない場所に隠しているのか・・・あり得るな。 パソコンの中にある可能性は欠片も考えず、ルルーシュが停止している隙に、当前のようにタンスの中も物色しはじめた。 そこに収められていた下着を目にし、思わず頭を抱えた。 多分ルルーシュはトランクスは履かないだろうから、ボクサーパンツだろうと思ってたが、黒ビキニは予想外すぎるよ!裏切られた気分だ!もちろん、いい意味で! しかも全部ってことは、今も、だよね?思わず1枚手にして興奮したスザクだが、ルルーシュが一緒だったのだとハッと我に返り、チラリとルルーシュの様子を伺った後、こちらを見ていないのをいいことに1枚失敬した。 本音を言うなら今身に着けているのを欲しい所だが、それは流石に引かれるだろう。 いや、こうして盗んだ時点で引かれるか。 男はみんな変態なんだという言い分は多分通じない。 俺も男だが、そんなことはしない!と言われて終わりだ。 ・・・それにしても、ルルーシュは机の前で何をしているんだ・・・? 入ってからずっと動かないけど・・・。 ま、まさかあそこにルルーシュが見られたくない物があったのか!? しまった! スザクは慌ててクローゼットから出ると、机の前に佇むルルーシュに駆け寄った。 覗き見ると、ルルーシュは何故か消臭剤を手に何やら考えこんでいた。 声をかける前に、まずはせわしなく視線を動かし、机の上を確認するが、ノートパソコンと何冊かの参考資料以外何も無い。 たった今掃除したばかりと言う様に綺麗だった。 ・・・もう片付けた後か。 スザクは内心舌打ちをした。 何があったのだろう・・・知りたいな。 だが、消臭剤を手に、何をしているんだろう?何か隠したい匂いでもあるんだろうか?・・・どんな匂いだろう? 「ルルーシュ、その消臭剤が、どうかしたの?」 いつも何処に使ってるのかな? にっこり笑顔で尋ねると、ルルーシュは数度瞬きをした後、にっこり笑顔を向けてきた。うん、なんか隠してる感じだよね君。 「なんでもないよ・・・って、スザク!お前クローゼットの中まで・・・!」 スザクを見るために視線を動かしたルルーシュは、クローゼットが開けられ、タンスの引きだしも開け放たれているのを目の当たりにし、慌てて駆けていった。しかも開いているのは下着の引きだしだ。 ルルーシュらしからぬ速さでそれらは閉められた。 恥ずかしさで頬を染めて、鋭い眼差しで睨みつけられ、ドキリと心臓がはねた。 「お、おまえな!こんな所まで見るな!!」 いくら親友でも、見ていいものと悪いものぐらいわかるだろう! 「いいじゃないかべつに。減るものじゃないんだし」 「減らなくても駄目だろう!!」 まあ、実際には減ってるんだけどね。 胸ポケットに仕舞われたそれに気づかないルルーシュの様子に、スザクはにこにこ笑顔を返した。 ************ さて困った。 どうする。 どうすればいい。 この惨状を今から片付けるなど不可能。 最低限、自分の衣服を持ち、身を隠すしかない。 ルルーシュに女装趣味が、と言う話になれば面白いとは思うが、サイズが全然違う上に、スザクにはこの拘束衣を見られている。 つまり私が居た事が知られてしまうため、これだけは持っていかなければなるまいと、白の拘束衣をハンガーから外し、ブーツを履いた。 ああ、まずい。 非常にまずいぞ。 そう思い悩んでいたC.C.の耳に、何やら音が聞こえて来た。 それは、コンコンというノックの音。 しかも、窓の外から叩かれている音だった。 いや、まさかな。 ここは2階だぞ? そう思いながらもC.C.は恐る恐るカーテンを開き、音のする場所を覗き見た。 するとそこには、一方的にだが見知った人物・・・篠崎咲世子がいた。 しまった、顔を見られたか。と内心慌てたが、相手は平然とした顔で「C.C.様、開けてください」と口にした。 名前まで知られていたかと、C.C.は平静を装い窓を開けると、咲世子は背中に荷物を抱えた状態で窓から部屋へと音もなく滑りこんだ。 ・・・ロープはない。 どうやって今まで窓の外に居たんだと、思わず目を瞬かせ、何度か咲世子と窓の外を見比べてしまう。 「C.C.様、梯子を下ろしますので、それで外へお逃げください。1階のリビングの窓を開けておりますので、そちらから中へ」 押さえた声で、咲世子はそう言うと、背負っていたリュックから縄梯子を取り出した。 それを慣れた手つきで静かに窓の外へと垂らしていく。 「・・・お前・・・」 それはどう考えても、C.C.をスザクから逃がすための準備だった。 しかも、逃がすだけではなく汚部屋と化したこの部屋を清掃する準備も万端だった。 「全て存じております。さあ、お早く。ルルーシュ様のお部屋の掃除は、私がやっておきます。お洋服もそのままで結構です」 梯子を固定し終えた咲世子に促され、C.C.は今は考えている暇はないと梯子を下り、1階へ隠れた。 万が一咲世子が室内で見つかっても、彼女の手には掃除道具一式。 ルルーシュに命じられて部屋の掃除をしているという言い訳が立つ。 C.C.が窓からリビングへ入る姿を確認した咲世子は梯子を引き上げ、リュックに仕舞うと、掃除道具を手に、テキパキと動き出した。 雑誌をまとめ、シーツ類は全て洗いたてのものと交換。それらとC.C.の衣服はリュックの中へ。ゴミを袋へまとめ、埃を落とし、拭き掃除をし、掃除用の粘着クリーナー(コロコロ)でゴミを取り除く。そして仕上げにピザの匂いを消臭スプレーで念入り消し去り、ルルーシュの好きな苺の香りの芳香剤をセット。その横にスプレー缶を。 ルルーシュならば、見知らぬこれらを見て、誰かが掃除をした事に気がつくだろう。 全てを完璧に整えたのを確認すると、咲世子は開け放たれた窓から部屋を後にした。 腹黒ナナリーと天然くノ一メイドは、きっと最強コンビ。 |